※注意

 @ [Fate/stay night] と [Devil May Cry] のクロスSSです

 A キャラクターの強さ等は作者の脳内ドーパミンに操作されており、実際と異なる可能性があります














「“Devil May Cry” ……今夜は閉店さ。合言葉を知らなきゃな」



















少し前までは整理された居間が、爆撃跡地のような惨状。
その中心にいる、30代付近で無精髭を生やした赤い外套の男。

「それで。アンタ、なに?」

ドアを突き破って一声。
わたしの問いかけに、甲高く口笛を鳴らすが返ってくる。

「こんな派手な呼び出しで第一声目がそれか」

軽薄そうな声で初めて声を出したソレは、
「まさしく大当たり、ってやつか!」と、楽そうに笑った。









最初は皮肉でも言われたのかと思った。
が、その男は何の邪念も無く、純粋に喜びの笑みを浮かべている。
どうもこの爆発的な召還をお気に召したようだ。

「……まあいいけど。
 それより、そんな所に座ってないで降りてきたらどう?」

「それもそうだな」

男は危なげなく立ち上がると、軽い挙動でそこから降りた。
それと同時に、組みあがっていた家具の山が崩れ落ちる。

この男、どういう奇跡か不安定に積み上がった家具の上で、ありえないバランスを保って堂々と座っていたのだ。

「まるでサーカスね」

「悪いが、ピエロは嫌いなんだ」

わたしの言葉をどう受け取ったのかは判らないが、男は淀みなく言葉を返してくる。
そしてそのまま、こちらを値踏みするようにジロジロと視線を這わす。

「な、何よ」

「後10年……いや、お嬢ちゃん程の器量良しなら5年でも十分だな。
 いい女になるぜ、俺のお墨付きだ」

「……そりゃどうも」

まさかサーヴァントにナンパされるとは思ってもいなかった。
もうこうなるとそこら辺の男と同じなんじゃあなかろーか。

……いや、すぐさま今の考えを否定する。
この化け物じみた魔力を持った存在が、そこら辺にいる筈もない。

「それで、再度聞くわ。アンタ、わたしのサーヴァントで間違いないわね?」

「ん? そんなもの聞くまでもないんじゃねえか?」

彼が右手の甲をこちらに向け、トントン、と軽く叩いて見せる。
確認するまでもなく、わたしの手には令呪がある。
そこから彼へと繋がるラインに、もちろん気づいてない訳がない。

「判ってるわよ、でもこういうのは必要な事でしょう?」

「Hmm... Yes sir, my master」

「よし。それじゃ聞くわ、貴方は何のクラスのサーヴァントなの」

この男は見る限り徒手空拳で、武器らしい武器が見当たらない。

そもそもアレだけ宝石をつぎ込んだのだ。
セイバー以外を引いたとあれば目も当てられない。

「一応、アーチャーだ」

目も……当てられない……

「どうした?」

「ううん、なんでもないわ」

いまさら文句を言った所で仕様が無い。
何故か1時間ずれていた家中の時計とか、悔やみきれない事もあるが起こった事までは覆せない。

それに、まだ終わった訳じゃない。
なにしろ三騎士の一つであるアーチャーだ。
英霊次第じゃ最良のセイバーにだって勝てる。

「それで……貴方の名前は?」

「ダンテだ」

「……ダンテ? 神曲のダンテ・アリギエーリ?」

「いや、ただのダンテだ」

……そんな英雄いただろうか。
いたとしても、知らない。この国では知られていない。

「おいおいどうしたお嬢ちゃん、突然俯いて」

「なんでもない」

ああ、ここ一番に最高の失敗をしてしまったようだ。
誰も知らない無名のサーヴァントを相棒にして、どうやって勝ち抜けというのか?

「わたし、もう寝るわ。貴方の召還で疲弊してるし」

「あん? 俺はどうすりゃいいんだ?
 ってそうか、街に繰り出して他のサーヴァント狩ってくりゃいいか」

「良い訳ないでしょ! 大人しくこの家の中にいなさい。
 そうね、暇ならこの部屋片付けておいて」

「めんどくせえな……」

ボソリと呟きながらぼりぼりを頭を掻くアーチャーを尻目に、二階への扉をくぐる。
ちなみに、わたしはこの時の自分の言葉を後で嘆く事になる。
まさか壁に大穴あけて、悉くを外に蹴り出す事を『片付ける』とは思ってもいなかったからだ。

っと、忘れるところだった。

「遠坂凛よ」

「何がだ?」

「貴方のマスターの名前。これから戦争を戦い抜く相手だし、名前ぐらい知っておいて貰わないとね」

「Okay, Pretty young lady」

……不安だ。

















魔力の回復や街の案内の為に学校を休んでアーチャーと外廻り。
色々な所で目的から脱線しようとする彼を引きとめた、その次の日。

登校したわたしを待ち受けたのは、変わり果てた母校だった。

中の人間を全て食い荒らす、人食い結界。
その式が埋め込まれた校舎は、まさしく食虫花の体内に他ならない。

サーヴァントは英霊。つまりは幽霊。
だからこそその食事は人間が食べるようなものではなく、魂そのものとなる。
これを張った人物は、サーヴァントの腹と魔力を満たす為に学校に関わる人間を生贄にするつもりなのだ。

「なるほど、中々にイカレタな奴がいるじゃねえか」

やはり軽薄な口調で答えるアーチャーの表情は、いつもの笑みは浮かべているものの、それを真剣な眼差しで睨みつける。

それに少し安心を覚えた。
共に戦おうという仲間が、気の合わない外道では正直やっていけないと心配だったのだ。




わたし達はそれを消す方針で同意し、動いた。
正確には、結界の技術はあまりにも高度すぎて、わたしには完成を遅らせる程度の邪魔しかできない。

だが、それでも意味はある。
相手の計画を遅らせる意味でも、わたしの『性分』としても、やって損はないのだ。

そうしていくつかの工作をして、屋上にある呪刻に触れた直後、



「なんだよ。消しちまうのか、もったいねえ」



飄々とした男の声と共に、圧倒的な存在が現れた。

……そこからの事を、わたしは正確には覚えていない。
男は、どこからともなく赤い魔槍を取り出した。
わたしはそこから逃げ出すように、屋上から飛び降りてどうにか校庭へと移動した。
あの一瞬で何度死んだと思ったか。
寿命の数年は縮んだというものだ。

そして、アーチャーがわたしと槍兵の間に現れ、赤と青が対峙する。

「それで、どうするんだいお嬢ちゃん」

「どうするって、何よ」

息も絶え絶えのわたしに、気遣う素振りもないアーチャー。
何時も通り軽薄な口調は変わらず、しかしその視線はランサーから外さない。

「逃げるか、ヤルか。どっちだ?」

それは挑発的な口調だった。
短い付き合いだが、これがただの挑発ではないと判った。
彼が本気で挑発だけのつもりなら、『ビビってるならお家に帰ってもいいんだぜ?』とでも言っただろう。

だがこれは違う。彼なりの励まし、わたしを鼓舞する為の問いかけだ。

「……冗談。命令よ、アーチャー。貴方の力を見せなさい!」

「OK. Yes, my mastar」





「よお、お喋りは終わったかい?」

「ああ、いい女だろう。羨ましいか?」

「へっ、まあな。俺のマスター殿は戦場にでれねえ臆病者でな。
 対してそっちは展望豊かな嬢ちゃんじゃねえか。
 自分の運の無さを呪っちまうね」

「He he... ならこっちで少しは楽しませないと悪いな」

アーチャーが何処から取り出したのは、黒と白の銃。
2メートル近くの大男が持っているのに普通のサイズに見える程の、大きな銃身だ。

「へえ、銃か」

「アンタの時代には無かっただろう。
 近代化の波はお嫌いかい?」

「まさか、そのゴツイのが腰のお飾りじゃない事を祈るぜ」

二人の男が笑う。
どちらも、お互いの“ノリ”がひどく好ましかったのだろう。
軽薄な言葉とは引き換えに、放たれている殺気が何よりも戦いが好きだと、語り合っている。

「It's show time... Come on!」





◆ ◆ ◆






爆発的な疾走。
それ以外に表現のしようがない、まさしく人外の規格を超えた突進。
青き槍兵は人の知覚を軽々と越え、赤い魔槍を突き穿つと水平に跳躍する。
20mはあった間合いを一足で埋めると、常人であれば視認する事すらできない三連撃を繰り出した。

対して、ダンテは動かない。
相変わらずの軽薄な笑みを浮かべたまま、2丁の拳銃を前方を突き出す。
そして、魔技染みたランサーの攻撃を、あろうことか銃のフレームで安々といなす。

銃身、グリップ、槍の穂先を次々と見極め弾くそれは、
激しい打ち合いに見合わず『オイタは駄目だぜ?』と言わんばかりの優しい手つきだ。



お返しとばかりに、今度はダンテの銃口からマズルフラッシュが輝く。
マシンガン並の連射速度で放たれたそれは、秒間にして6発もの弾幕としてランサーを襲う。
それも頭、心臓、武器を持つ手元と精密かつ致命的な部位ばかりに。

人間であれば目の前にするだけで死を覚悟する最悪の兵器。
だがそれも、英霊を前にしては数ある武器の一つにしか過ぎなかった。



頭を狙う魔弾を“見てから”かわす。
心臓、手元を狙う弾丸を槍の一振りで弾く。

傷の一つもない。
現代兵器の象徴、結晶ともいえる兵器は、一振りの槍と同格の武器としてここに存在した。



「〜♪」



感嘆の口笛。
ダンテにとって、ここまで高度な“技術”を持つ敵は久しく拝んでいない。
なにしろ、彼の相手は存在自体がまさしく化け物ばかりだからだ。
魂、それこそ力そのものが強さであり、ここまで昇華された武器の使い手は数人しか知らない。

その余裕を見せ付ける態度に、憤怒するランサー。という事もない。
素直に嬉しそうなダンテの表情を見て、彼は同じく口元を歪めていた。

なにしろ、好敵手と出会えたのは、彼にとって幸福以外の何者でもないからだ。



ランサーの赤い魔槍が放つ、6連撃。
火花を散らしながらそれを弾く黒と白の短銃、エボニー&アイボリー。




一進一退。
次第に“放ち合い”は数を増し、同時に間隙が失われていく。
突きながら、弾く、避ける。
撃ちながら、弾く、避ける。
二人の周りは複数の火花。まさしく炎の様に輝き爆ぜる。


「っふ!」


掬い上げる槍の一閃。
回避するには左右どちらかに身を動かす他無い。
今までは小さく素早く槍を避けていたダンテにとって、それは大きな隙になる。

槍が風を巻き込み、赤い残光を残して天へと大きく振り上げられる。

右か、左か。だがダンテはどちらにもいない。
一瞬の驚愕の後に、空を仰ぎ見るランサー。
そこには銃口を下に構え、回転しながら飛び込む様に落ちてくる男の姿。


Rainstorm
降り注ぐ暴風雨が如き弾幕の雨。



嵐の名に相応しい、銃撃のスコールが降り注ぐ。
槍を空へと向けて振り回し、ランサーはその暴風域から何とか逃れ出た。
そのままダンテから距離をとって、体制をどうにか立て直す。

数々の英雄達と戦い、それを御してきたランサーでも、今のは舌を巻いた。
雨の様に降り注いだ弾丸ではなく、その直前の槍をかわされた体捌きにだ。

ダンテは足元から迫る槍を左右に避けるのではなく、それに乗って上空へと跳躍したのだ。
目の前でそれを成されたにも関わらず、ランサーの意識は一瞬停止した。
なにしろ、大男が一人槍に乗ったにも関わらず、彼の愛槍には少しの負荷も感じなかったのだ。


「Hmm... あれも避けちまうのか」


腰に手を当て、調子を変えずにいる赤い銃兵。
その姿は隙だらけで、繊細さの欠片もないにも関わらず、あんな芸当も見せる。

ランサーの中で闘志が湧き上がる。

ここから先に様子見は無い。
今出来る最速の一撃で、あのニヤケ面を突き穿つ。

疾走。
初回の突進と比べても倍はある速度で、ダンテへと迫る。


「じゃあ、こういうのはどうだい?」


それが届く前に、彼の外套の中からもう一つの武器が現れる。
長い銃身に、二つの銃口、それが同時に火花を散らす。


「――――!」


ランサーの目には、はっきりとその軌跡が見えた。

放たれた二つの弾丸は、中空にて破裂し、無数の弾丸を生み出す。
先ほどまでの短銃が点ならば、これは面。
時間とともに広がっていくそれらは、いずれランサーを飲み込む程大きく広がるだろう。
そうなればただではすまない。

ならばそれを、ただ見ている訳にはいかない。

槍を地面へと突き刺し、その反動に乗って跳躍。
勢いもそのまま、棒高跳びの要領で斜めに飛び、散弾の脅威外へと逃れた。


「!!」


そして次に意表をつかれたのは、まさしくダンテの方だった。
防ぐしかないタイミングで打った弾丸が、避けられたのだ。
感嘆を通り越して、感激した。
さらに、


「――――ック!」


頭を庇う散弾銃こと、コヨーテ・Aに鈍い衝撃。
振り仰げば、上下逆さまに槍を振るう、青い槍兵の姿。
先ほどのお返しと不敵に笑う表情が、視界の外へと消える。
振り向き、銃口を向ければそこには何も無い。

騒ぐ“悪魔的”な感。
何の根拠もなく、構えたコヨーテ・Aを横なぎに振り払う。
再び鈍い衝撃。
その先を見やるが、やはり姿はない。

遠距離では不利、本来の槍の間合いである中距離ですら散弾銃により危険。
ならばこそとランサーが選んだのは、近距離による死角からの攻撃だった。

視界の端に移る微かな青い残光を頼りに、ランサーの攻撃を凌ぐダンテ。
時々感に任せて銃をぶっ放すが、悲しく地面を抉るのみ。
槍兵の敏捷は伊達ではなく、アーチャーであるダンテには眼だけでしか勝負できなかった。

だが、勝負というのは何も速度や力のみで決まるものじゃない。


「Foooo HA!!」


軽快な叫び声と共に、散弾が四方八方に撃ち込まれる
コヨーテ・Aをヌンチャクが如く振り回し、見境なしにぶっ放したのだ。

Fireworks
それはまるで花火の様に。


面であった筈の攻撃が回りを囲む円となる。
が、それも穴だらけ。
当たるか当たらないかは主に運に任せる事になる。

―――所でこの男、金の有り無しに関わらずギャンブルにはトコトン弱い。
しかし、


「Bingo!!」


こと戦闘における悪運については、神がかりともいえる幸運を引き当てる。
防がれはしたものの、確かにランサーへと当たった弾丸がそれを物語っていた。













「たまらねえなあ、こんだけ熱くなっちまったのは久しぶりだぜ」

「気軽なもんだ、こっちはアーチャー如きに近接であしらわれて焦ってるってのによ」

「そりゃあ悪いな。
 だがよ、その割には口元が引きつってるぜ」

獣じみた笑みだ、そう言ってダンテは笑う。
それに呼応する様に、ランサーの口からは笑い声がこぼれる。

「それに焦ったのはこっちだぜ。
 ワンちゃんみたいにグルグル廻られてよ。
 思わずリード線と首輪を探しちまった」

引きつった口元が、笑みとは性質の違うものへと変わる。
同時に、ランサーが纏っていた空気が冷たく硬化してゆく。

「犬、と言ったな貴様」

そこには先ほどまでの軽々しさは無い。
導火線に火のついた爆弾のように、一触即発の危うさを秘めている。

その様子に、ダンテは戸惑った。

彼がいつも敵に対して行うなんて事の無い挑発。
今回も例に漏れず、特に意識しての事ではなかった。
だが、それが思ってもいない効果を発揮したのは彼としても意外の一言だった。

元はと言えば、“人間”を過小評価しがちな悪魔に対して本気を出させる為に始めた事。
そもそもこちらを侮らず正々堂々と戦うランサーに対して、全く無意味な行為の筈だった。

「ああ、自分の尻尾を獲物にグルグルグルグルとな。
 子犬だったらまだモテただろうが、お前みたいな野良犬じゃ飼い手もつかねえだろ」

しかし、「だから放し飼いなのか」とダンテは挑発を続けた。
そっちの方が面白い事になる、と睨んだのだ。

「―――なるほど、よく咆えた」

それを受けたランサーは、心底楽しそうに笑う。

「では、お前はここで死ね」

そう答えると同時に、世界を殺気で満たした。






◆ ◆ ◆







「―――っ」

その急激な変化に、息を呑む。

先程まで、情けない事にわたしは観客席に居た。
手を出す隙など無かったし、正直彼らの技に見惚れて身動きが取れなかったからだ。
だが、この威圧感を前にしてはそれも終わり、一気に現実へと引き戻される。

激しい熱で満たされていた空間が、ソレを失っていく。
穂先を下げ、地を突き刺す様な構えをしたランサーに、それ等が収束してゆく。
いや、正確にはランサーが持つ槍に。

あれは間違いなく、宝具。
英霊の象徴たる絶対的な武具・防具の類だ。
火や水を生み、神や魔、あるいは最強の幻想種である竜すら殺す、英霊を英霊足らしめる存在。

急激に失われていく熱、いや、大気に漂うマナ。
ランサーの持つ魔槍は貪欲に魔力を食らい、爆発するべく力を蓄える。

「He he...」

対して、アーチャーの態度に変わりは無い。
ガン・マンの様に肩の上で銃身を廻し、腕を交差させて銃口を突きつける。

その腕が赤く輝く。
膨大な魔力が銃身へと伝わり、化け物じみた威力を予感させた。

両者、そのまま動かず。
だがやはり、口火を切ったのはアーチャーだった。

「C'mon!」

まさしくその声を合図に、ランサーが駆ける。

ゲイ
「―――刺し穿つ


溜め込んだ魔力を、槍が呪いとして解き放つ。
だがそれをアーチャーとて黙って見ている訳ではない。

「Fire!!」

心臓にまで響き渡る射撃音。
今迄と連射速度に差は無い、だがその弾丸一発一発にとんでもない魔力が籠められている!


ボルク
「―――死棘の槍!!


だが同時に、ランサーの宝具が名と共に開放される。
赤い魔槍は呪いを吐き散らしてアーチャーへと迫り、

「っ―――」

激しい硬質音と共に、ランサーの後ろへ弾かれた。
アーチャーの魔弾が精確に槍へと当たったのだ。
その衝撃に、流石のランサーも攻撃の体を保てない。
体を狙う弾丸を無理な体勢で避けた点も、理由の一つだろう。

勝った。

ランサーの宝具は発動せず、無茶な回避で倒れこむ直前。
対して、アーチャーは必殺の一撃をかわされたものの追撃に何の支障もない。
紛れも無い、誰が見ても迷う事の無い、勝利。

……だというのに、この悪寒はなんだというのか。

未来なんて見えないし、こんな高次元の戦いに結末の予想なんてできない。
だが、確信めいて言える事がある。

―――アーチャーが、死ぬ。

「アーチャー!」

逃げるのか、守るのか、そもそも何が危険なのか判らないまま、声を張り上げると同時。
パァ、と。赤い血飛沫が空を舞った。

少しの沈黙の後、倒れこむ体。

それは紛れもなく、わたしのサーヴァントの末路だった。













2メートル近い体躯が倒れこみ、重い音が沈黙の中に響く。
胸に赤い槍を生やし、それに劣らない鮮やかな赤をあふれ出している、アーチャーの姿。

……しっかりと見ていた筈なのに、今でも何があったか判らない。

アーチャーの弾丸に弾かれた槍は、背の後ろへ。
槍を手放しこそしなかったが、もはやランサーは追撃できる体制ではなかった。

それがどうだ。

槍は何の呼び動作もなく矛先を前へと向けると、アーチャーの銃を避ける様にして心臓を貫いた。
その軌道は直角的で、人間には……いや、英霊にすらありえない動きだった。

「ゲイ・ボルク……」

だが、それが宝具の所業というのならば合点が行く。
特にクー・フーリンが持つ一撃必殺の槍が正体だと言うのならば―――

「さて」

倒れたアーチャーから視線を切り、青い槍兵はソレをわたしへと向ける。
ビクリ、と自分の体が震えた。

「盛り上げてくれた割には、あっさりと終わっちまったが……
 いや、ゲイ・ボルクを使う気にさせられただけ上等か」

獰猛な笑みが、こちらに「そうだろ?」と同意を持ちかける。

悪いがそれに答えるだけの余裕はない。
先ほどまでの殺気こそ無くなったものの、窮地に立たされているのだ。
いや、もはや苦しいなどという問題ではない。
わたしのサーヴァントは死に、ランサーと1対1。

短いものだが、わたしの人生はここで詰みだ。

「サーヴァントを失ったマスターは、『野良サーヴァント』との再契約を危惧して殺される……
 ってのが定石だったな、確か」

だが状況が絶望的であれ、ただ死ぬ訳にはいかない。

お父様の残した、胸の宝石に意識を向ける。
純粋な魔力としてぶつければ、足止めぐらいは出来る筈だ。
当たる筈がないなんて事、判り切ってるが―――何もせずに諦めるなんて事はしない。

「展望豊かなお嬢ちゃんをヤルってのは正直もったいねえが、
 これも外れのサーヴァントを引き当てた自分の不運を恨んで――――」







ブタ
「へえ、誰が外れだって?」










破裂音。
それは今夜だけで聞きなれてしまった、銃撃の音。

少しして、離れた位置から地を擦る音が響く。
ランサーが先ほど立っていた場所から、一瞬で数十メートルの距離を移動したのだ。

「貴様……」

「いよ、っと」

膝を曲げ、足の筋肉だけで立ち上がるアーチャー。
刺さったままの槍とも相俟って、まさしくゾンビさながらといったところだ。

「なかなかっ、衝撃的な体験だったぜ」

大した事の無いように槍を引き抜くと、数秒と立たずに出血が止まっていった。

「が、悪かったな。この程度じゃ死なないんだ」

「―――化け物め」

ランサーの歯軋りがわたしの所まで響く。
それはそうだ、近接で渡り合った点は、まだいい。
まさしく必殺の宝具で貫いた相手が生きており、しかも武器まで奪われたとあれば油断では済まない。
諦め掛けた戦いだったが、ここに来て逆転、必勝が見えた。

「ふぅん……それにしても良い槍だな」

アーチャーが赤い槍を、片手でぽんぽんと弄ぶ。
本人の身長より長い槍だ、重量もかなりある筈なのだが、彼の様子からはそれを感じられない。

「ちょっと借りるぜ」

「は?」

わたしがそう声を出していた時には、アーチャーは既に槍を『振り回して』いた。

「ha-ha!!」

赤い魔槍を左右へ振り回し、その勢いのまますくい上げる。

「Foooooo!!」

頭上で砂煙が舞い上がる程に槍を旋風させと、今度は目にも止まらぬ速さで連続突きを放つ。

「Ha! Ha! Ha! Ha! Break Down!!」

大地が揺れる、強烈な一撃。
空気がびりびりと振動して、離れたわたしの肌までそれが伝わってきた。

「Too Easy...」

そしてポージング。
よほどゲイ・ボルクを気に入ったのか、その表情はご満悦としていた。





「槍ってのは初めてだったが、なるほどイイモンだな」

もはや何度目かも判らない、驚き。
あれだけ華麗に、それこそランサー顔負けで槍を振り回しておいて、初めてときた。
わたしの引き当てたサーヴァントは、一体どれだけ規格外な存在なのか。

「っと、悪ぃな待たせて」

「……気にすんな。相棒を奪われたマヌケだ、何を言えたもんでもねえよ」

「そう拗ねるなよ。
 ほら、返すぜ」

へ? そう口に出す前に、赤い槍が放物線を描いて飛んでいく。
それは違わずにランサーの手へ収まった。


――― 一瞬、今までとは別の意味で空気が停止する。


「な」

「な、何してんのよアンタ!」

あまりの事に呆けているランサーに被さる様に、わたしの叫びが響き渡る。

「何って、見てのとおりだ。
 借りたモンは返すってママに教わらなかったのか、お嬢ちゃん?」

「そういう問題じゃないでしょ、この……馬鹿!」

頭に血を上らせて叫び続けるが、アーチャーには毛先程にも反省の色がない。
力や能力だけじゃない。
こいつ、頭の中までネジがぶっ飛んでる!

「――――どういうつもりだ、アーチャー」

ランサーの冷え切った声が、加熱したわたしの頭を冷ます。

「まだ居たのか。『尻尾を巻いて』逃げ帰ってても追うつもりはなかったんだが」

「ちっ、茶化すな。何故槍を返した。
 俺程度じゃ相手にならねえって、舐めてるのか?」

「Hmm...」

ランサーの真剣な表情に、彼は指を顎に当てて考えるそぶりを見せる。
彼はとても人間らしく、表情豊かだ。
だから短い付き合いだと言うのに、彼の考えている事が判ってしまう。
あれは、真面目に返答しようか、それともさらなる挑発で煽るか、どちらがより楽しめるか考えているのだ。

「……あんな奇襲じみた終わりじゃ、つまらねえだろ。
 これだけ刺激的な夜が過ごせるって知ってたなら、もう少し真面目に受けてたからさ」

たぶん、彼にしては珍しく、それは真面目な回答だった。

だが、それはそれでわたしの頭を悩ませる。
どれだけ戦闘狂いなのだ、この男は。

「…………」

押し黙るランサー。
だが、堪えきれないとその口角が釣り上がる。

「は……ハッハッハッハ!」

そのまま、心の底から愉快だと言わんばかりに笑う。

「くくっ……まったく、食えない男だなテメエは」

そして再び槍を構えて、闘気を立ち上らせる。

「それじゃあ、お望みどおりに死ぬほど楽しませなきゃぁな」

「He he...」

同じく、双銃を構えて笑みを浮かべるアーチャー。
互いの魔力が高まり、目視できるほどにまでに力を増す。

「全く、一日目からこれじゃあ……
 楽しすぎて狂っちまいそうだ!」





――――この日、この時。

わたしにとって始まったばかりの聖杯戦争は、なんともド派手な花火で始まりを告げた。










続かない
続き










雑記:

 DMC1〜4をクリアしたので燃え上がった熱そのままに書き連ねてみました。
 本当は某掲示板とかに上げてみようかと思ったんですが、
 既に書いている方がいたので断念。
 
 しかも書いてて『俺は何度聖杯戦争繰り返せば気が済むんだよ』と笑えてきたので続きません!
 
 ハッハー! スウィーツ!!






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